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◆邂逅の森◆ [本]


邂逅の森 (文春文庫)

邂逅の森 (文春文庫)

  • 作者: 熊谷 達也
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫


秋田の貧しい小作農の次男・松橋富治は、
同じ村に生まれた男が殆どそうであるように、
気が付いたら、マタギになっていた。
それ以外の職業は選びようがない環境だった。


しかし彼は、地主の娘・文枝と激しい恋に落ちた事で、
文枝の父を怒らせ、
鉱山へと追いやられてしまう。


鉱山での仕事もそれなりにこなし、
リーダー格にまでなった富治だが、
あるきっかけから、山に入り、
血が騒ぐ。
マタギに戻りたい。
自分の天職はマタギしかない、と・・・。





昨年、立て続けに、
マタギを主人公にした映画を観ておりましたら、
ブログのお友達、NO14Ruggermanさんから、
この「邂逅の森」をお薦めいただき、
図書館で借りてきました。


何という力強い小説。
圧倒され、心揺さぶられる。


お薦めいただいたから、という事ではなく、
本当に素晴らしい内容に、感動を覚えた。


自然への畏怖。
獣を殺す事を生業とする中で、
山の神の存在を信じ、
厳しい掟を守っているマタギたち。


ラストの、富治と大熊との対峙の場面は、圧巻。
そこには勝ちも負けもない、
マタギ対山の「ヌシ」との壮絶な闘いが描かれる。


富治。
なんて男らしい男。


彼の男らしさは、
マタギをしている時でなく、
むしろ、鉱山で働いている時や、里にいる時にこそ発揮されていると、
私には感じられた。


彼は、女や、自分の部下に、
決して尊大な態度を取ったりはしない。
この時代に、それはとても珍しい事だったのではないか、と思う。
ふんぞり返る事が強さではないと、
意識はしていないだろうが、
彼はそれを体現している。


それから、忘れてはならないのは、
彼の人生に深く関わる、
二人の女、文枝とイクの存在。


読んだかたは分かると思うけれど、
富治が軽い気持ちで、文枝にある提案をした時、
文枝の、
「あなたとイクさんの近くにいると、嫉妬で気が狂ってしまう」という一言は、
溜息とともに、大きく肯いてしまった。


富治。
男らしいことにかけては、
天下一品だけど、
女の気持ちはまるで分っていない。

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◆「二重生活」と「いちど尾行をしてみたかった」◆ [本]


二重生活 (角川文庫)

二重生活 (角川文庫)

  • 作者: 小池 真理子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/11/25
  • メディア: 文庫


6月25日に公開される映画、「二重生活」。
観に行くかどうかは分からないけど、
いい機会なので、小池真理子さんの原作小説を読んでみようと
借りてきた。


-------


主人公の大学院生・白石珠は、
大学で、「他者のあとを付け、自分と他者を置き換える」という文章を読み、
強い興奮を覚える。
それは、「文学的・哲学的尾行」というもので、
対象者は誰でもいいという


ある日、珠は、
自宅マンションの向かいの一軒家に住む、
一点の曇りもなさそうな幸せそうな家庭の若い主人・石坂が、
駅に妻の運転する車で送られてきた場面に遭遇する。
「石坂を尾行してみよう」
咄嗟に思い付いた珠が彼のあとをつけてゆくと、
表参道駅で下車した石坂は、あるカフェに入る。
すると、やって来たのは、彼の恋人らしき女。
2人は人の目をさして気にする風でもなくイチャイチャし、
クリスマスに泊まるホテルの相談をし始める・・・。


-------


小説としての深みはないけれど、
映像にしたら、なんとも面白そう。
登場人物たちの絵が頭の中に浮かぶ。


珠はその後、
2度ほど、石坂のあとを付けるのだけれど、
彼に気付かれて、
詰め寄られ、
仕方なく、
「文学的・哲学的尾行」の事を
石坂に説明する。


しかし、どうやら彼は、
他人を尾行する、という行為から得られる興奮を
1%も理解できないらしく、
読んでいる私は、軽く失望してしまった(笑)。


いや、石坂の感覚が普通なのは分かっている。
誰だって、自分を尾行する人間がいたら、
不気味で、そして怖く思うのは当然だ。


私が珠に共感を覚えるのは、
過去に、
「いちど尾行をしてみたかった」というルポ本を読んでいる事が
とても大きいと思う。

いちど尾行をしてみたかった (講談社文庫)

いちど尾行をしてみたかった (講談社文庫)

  • 作者: 桝田 武宗
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1997/02
  • メディア: 文庫


ずいぶん前に読んだので、
細部は忘れてしまったけれど、
著者は、街で出会った見知らぬ一人をターゲットに定め、
その人間のあとを付いてゆく。
目的はない。
興味を引かれた人物がこれからどこへ行くのか、
どんな生活をしているのか、
それを見届けるだけ。


これを読んだ時は、
「面白そう、やってみたい」と思ったものだ。
もちろん思っただけで、実行した事はないけれど、
世の中は、
こういう事に興味を覚える人間と、
全く理解できない人間の2種類に分かれるのだという気がする。
どちらが正しいというのは決してなく、
それはもう感覚の違いとしか言いようがない。


こんな事を書くと、
私がとても危ない人間に思われそうな気もするけど、
決してそんな事はないです(と思います(笑))。
ただ、今後もしも、
本当に尾行を実行したとしても、
それをここには書けないかなぁ。
本物の危ない人と認定されてしまう(笑)。

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◆「柔らかな頬」と「木下闇」◆ [本]


柔らかな頬

柔らかな頬

  • 作者: 桐野 夏生
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 単行本


押入れのちよ

押入れのちよ

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05/19
  • メディア: 単行本


先日、
映画、「虹蛇と眠る女」のレビューで、
http://aomikamica.blog.so-net.ne.jp/2016-03-21
「神隠し」の事を書いたけれど、
「神隠し」と聞いて、
私がまず最初に頭に浮かぶのが、
桐野夏生さんの小説、「柔らかな頬」。


ある日、旅行先の山荘で、
主人公の幼い娘が忽然といなくなる。
懸命な捜索も空しく、
娘は見つからない・・・というストーリー。


直木賞を取ったこの小説は大変に面白く、
夢中になって読んだものだが、
有名な事なのでネタばれしてしまうと、
結局、ラストまで犯人は分からない。


桐野さんは犯人を書いたのだけれど、
編集者が、「そこは明確にしないほうが」と進言したと
何かで読んだ事がある。
それが本当だとしたら、
まったく余計な事をしてくれたものだよ(笑)。
推理は読み手に任せるって、
任されても困る。
こちらは真実が知りたいというのに・・・。


・・・それから数年後。


萩原浩さんの短編集、「押入れのちよ」を読んでいた私は、
そこに収録されている一編、「木下闇」を読んでいるうちに
胸が高鳴り出した。
幼い少女が、
片田舎の母の実家でかくれんぼをしているうち、
忽然といなくなる。
そして、彼女の姉が15年後に、
事件以来のその家を訪れる、という物語。


これは・・・「柔らかな頬」に似ている。
もちろん完全に同じではないけれど、
シチュエーションがなんとなく似ている。


そしてこちらには、
犯人と、
動機と、
遺体の隠し場所が、
明確に記されてあった。


「柔らかな頬」で、ずっと消化不良気味だった、
私のモヤモヤが一気に解決したような気持ちになった。
そっか、少女はそんな所に隠されていたのか、
それでは誰にも分かるまい。
見つかって良かった、
犯人が分かってホッとした・・・
・・・って、この2冊に、
何ら関連がないことは分かっては
いるのだけれど。


荻原さんが、
「柔らかな頬」を意識して、
この短編を書かれたのか、
それとも偶然なのかは分からない。
ただ私は、
荻原さんに感謝したい気持ちでいっぱい。
「解決してくださって、ありがとうございます」と。


「柔らかな頬」を読んで以来、
ずっとモヤモヤされている方、
そして、これから読もうと思っている方、
もしお時間があるなら、
続けて、この「木下闇」を読まれるのも
一興ではないかと思います。

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◆謎の毒親◆ [本]


謎の毒親

謎の毒親

  • 作者: 姫野 カオルコ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/11/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


普通では考えられないような言動で、
主人公を悩ませる両親。


一応、小説のような形をとってはいるけれど、
著者、姫野カオルコさんの
実体験を綴っているという事だ。


世の中には色々な親がいるけれど、
確かに主人公の親の行動は
理解不能だ。


突然、本当に突然、
主人公が発した何気ない言葉に激昂し、
土下座させて謝らせる父。


そして、
母親から受けていた、
セクハラ行為。


父親が実の娘にセクハラするという話は、
聞いた事がないわけではないけれど、
母親がそれをするというのは
様々な映画や小説に接していても、記憶にない。
気持ち悪いけれど、
確かに興味深い。


主人公の両親は、大変に仲が悪く、
生涯に2度しか性交をしなかったと書かれてある。


そんな事で、母は欲求不満だったのか、
それとも、これは大変な憶測だけど、
本人にハッキリとした自覚はないにせよ、
男性より女性が好きだったとか?
時代的に、口に出せずにいたのかもしれない。


ただ、それを娘に向けるというのは、
有り得ないけれど。


この両親がしてきた、
数々の不可思議な行動の理由は、
両親が亡くなってしまっているので、
確かめられないのが本当に残念だ。


いや、本を読む限り、
真っ当な会話が成り立たなさそうな両親なので、
生きていたとしても、
聞いても無駄かな。






一口に「親」と言っても、
子供との関係は多種多様。


親が、
「十分な愛情をかけて育てた」と言い張っても、
子供の方が、
「愛情?あれのどこが?」と感じる場合もあるだろうし、


「あまり手をかけられず、可哀相な事をした」と
親が感じていても、
「こんなに大切に育ててもらって、本当に感謝している」と
子の方が思っている場合もあるだろう。


相性のようなものもあるんだろうけど、
「相性」云々を親側が口にするのは、
絶対にしてはいけないと思う。


自分が産んでおいて、
「この子とは相性が悪い」なんて、
そんな勝手な言い分があるものか。
相性の一言で片づけられる子供の方はたまったものではない。
そんな親は、
くだらない言い訳をする前に、
自分の子育てを振り返った方がいいと思うんだけど。

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◆モンローが死んだ日◆ [本]


モンローが死んだ日

モンローが死んだ日

  • 作者: 小池 真理子
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2015/06/09
  • メディア: 単行本


久し振りに読んだ小池真理子さん。
女だなぁ、女の世界だなぁと思う。
女だから当たり前だけど(笑)。


主人公は、夫を亡くして以来、
精神の不安定さに悩まされている女性・鏡子。
彼女は精神科にかかり、
そこの医師・高橋と懇意になり、
毎週同じ曜日に、
彼が泊まりに来るくらいの仲になる。


けれど、
半年ほど経ったある日、
高橋が突然、音信普通になる。


その辺りまでは、
中年の男女の恋愛の縺れ話かと思いながら
読んでいたのだけれど、
ちょっとサスペンスのような様相を呈してくる。


人が一人いなくなるって、
大変な事だ。
読み手は、高橋がなぜいなくなったのか、
一体どこへ行ってしまったのか、
早く知りたくて、
つい夢中になってしまう。


高橋が来るはずの曜日に、
連絡がなく、
不安に思い始めた鏡子の心情の描き方を、
「わかる」という思いで読む。


待っている人からの連絡が来ない時の、
不安な感じは、多くの方が経験していると思う。


なぜ電話もメールもないのか。
事故に遭ったのか、
急病で倒れているのではないか、
ケータイの失くしたのか、
いや、もしかしたら、
電波か何かのトラブルで、
自分のメールが届いていないのかも・・・。


とにかく、あらゆる理由を考える、あの感じ。
特に恋愛の場合、
「自分は嫌われた」という理由以外の理由を探そうと
余計に必死になるんだろう。


主人公が、自分の不安定な精神状態を、
アイガーの北壁から足を滑らせて落ちてゆく
イメージに例えるのが印象的。


アイガーで誤って落下すると、
1500メートルもの高さを、
ただひたすら落ちてゆくのだそうだ。
その1500メートルの間に、
人は何を考えるのだろう。
途中で意識を失うだろうか。
いや、むしろ、失った方が楽かも。

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